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大阪高等裁判所 昭和41年(ツ)107号 判決 1970年5月14日

上告人

杉野原文顕

代理人

黒田喜蔵

黒田登喜彦

被上告人

伊藤一則

伊藤隆展

代理人

伊藤典男

高木清

主文

原判決中被上告人伊藤隆展に対し原判決添付別紙目録記載の土地につき神戸地方法務局西宮出張所昭和三七年一〇月二九日受付第一八八六六号をもつてなされた所有権移転登記の抹消を求める上告人の請求を棄却した部分を破棄する。右部分について本件を神戸地方裁判所に差戻す。

原判決中その余の部分に対する上告人の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

訴訟の当事者の確定は、訴状及び添付書類の内容を客観的に観察してなすべきものであり、そこに記載された氏名住所が唯一の資料となるものではなく、訴状及び添付書類の全趣旨から、その訴訟で何人から何人に対する判決が求められているかによつて、当事者の確定をなすべきものであるとし、所論西宮簡易裁判所昭和三七年(ハ)第六号土地所有権移転登記手続請求事件の訴状(成立に争のない乙第九号証)及び添付書類である本件土地登記簿謄本(成立に争のない甲第一号証)により、上告人を本件土地の前所有者とし、その不動産登記簿上に記載されている住所をもつて、同事件の被告の住所としていることが明らかであるから、本件土地の前所有者としての上告人を右事件の被告としているものであるとした原審の判断は正当であつて、所論当事者の確定を誤つた違法はない。論旨は理由がない。

同第二点について。

本件記録によれば、前記西宮簡易裁判所昭和三七年(ハ)第六号土地所有権移転登記手続請求事件における確定判決は、被上告人伊藤一則が昭和三七年五月二日上告人から本件土地所有権を代物弁済により取得したとの事実を認定し、その主文において、上告人は同被上告人に対し右土地につき昭和三七年五月二日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をなすべきことを命じたものであり、上告人が本訴において、同被上告人に対しその抹消を求める登記は、同被上告人が右確定判決に基づいてなした所有権移転登記であることが明らかである。右確定判決は、本件土地につき上告人が同被上告人に対し右代物弁済による所有権移転登記をなすべき義務につき既判力を有するものであるから、上告人が右確定判決の口頭弁論終結後に生じた新たな事情を主張して、右登記の抹消を求めるは格別、右確定判決の口頭弁論終結時において上告人に右所有権移転登記義務のなかつたことを主張して右登記の抹消を求めることはできないものというべきである。したがつて、上告人の同被上告人に対する右土地所有権移転登記の抹消を求める本訴請求を前記確定判決の既判力に抵触するものとして排斥した原審の判断は相当である。

原判決は、被上告人伊藤隆展は右確定判決の口頭弁論終結後における被上告人伊藤一則の特定承継人として、右確定判決の既判力の影響を受けると判断している。しかしながら、被上告人伊藤隆展は被上告人伊藤一則から本件土地を買受けたものであるとされているのであるから、中間省略登記の請求が原則的に禁止されている関係上、直接上告人に対し本件土地所有権移転登記を請求し得る立場を取得するものではなく、被上告人伊藤隆展がたとえ前記確定判決の口頭弁論終結後に本件土地所有権を被上告人伊藤一則から売買により取得したとしても、被上告人伊藤一則の上告人に対する前記代物弁済による本件土地所有権移転登記請求権を承継するものではないから、前記確定判決の原告である被上告人伊藤一則の口頭弁論終結後の特定承継人とはいえないので、右確定判決の既判力は被上告人伊藤隆展には及ばないものと解すべきである。したがつて、上告人の同被上告人に対する被上告人伊藤一則から被上告人伊藤隆展になされた売買による所有権移転登記の抹消を求める請求を前記確定判決の既判力に抵触するとして、その実質審理に入ることなく排斥した原判決は、既判力の法理の解釈を誤り、審理不尽の違法を犯したものであつて、破棄を免れない。

以上の次第で、原判決中、被上告人伊藤隆展に対し本件土地につき神戸地方法務局西宮出張所昭和三七年一〇月二九日受付第一八八六六号をもつてなされた所有権移転登記の抹消を求める上告人の請求を棄却した部分を破棄して、これを原審に差戻すが、その余の部分に対する上告を棄却することとし、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。(金田宇佐夫 輪湖公寛 中川臣朗)

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